Ti-Ni形状記憶合金薄膜は、マイクロアクチュエータの有望な候補材料であると考えられている。しかし、マルテンサイト変態に伴う完全な形状記憶特性を薄膜で実現するには、成膜法と特性評価法の開発が必要である。初年度の研究では、コーティング条件の効果を系統的に調べることにより、完全な形状記憶特性を有するTi-Ni薄膜の作製と特性評価に初めて成功した。今回は、各種組成比のTi-Ni形状記憶合金薄膜をRFマグネトロンスパッタリング法により作製し、溶体化処理と時効処理を行い、変態温度と記憶特性を含めたアクチュエータ機能の多様性を実現するのに成功した。また、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、EPMA、透過型電子顕微鏡等を用いて、膜の表面と内部組織の状態を明かにすると共に、組成分析を行った結果、均質な膜が作製できたことが確認できた。 組成の調整を行った結果、約56at%から44at%の間の広範囲な組成の薄膜を作製した。これらの薄膜に、973Kで溶体化処理を施し、その後、773Kで各種時間の時効処理を施した。その結果、Ni濃度が50at%以下の組成では、時効の効果はほとんど現れず、50at%以上の組成では、顕著な時効効果が現れた。溶体化処理材では、バルク材との大きな違いは、まずR相変態が明瞭に現れることである。さらに、すべり応力も高く、安定した記憶特性が得られることも判った。R相変態温度は約310K、M変態温度は約265Kまで上がることが確認でき、実用的に十分用いることのできる特性を開発できた。
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