自動車の軽量化とリサイクルの面から期待されるアルミニウム合金板は、局部伸びが小さく、プレス成形性が鉄に比べて大幅に劣っている。絞り性の指標であるr値は、鉄では2以上の値が容易に得られるのに対し、アルミニウム合金板では今まで1を越えることはなかった。r値は、板面に平行に(111)面が配列した集合組織が形成されれば向上するが、fcc金属では普通の製法ではそのような集合組織は生じない。本研究は温間圧延を利用して、表面層に(001)[110]せん断集合組織を発達させ、その再結晶集合組織を利用してr値の向上を図るものである。 厚さ5mmの2種の熱延板4.0Mg-0.1Fe-0.1Siと5.5Mgを用いた。予備実験で、温間圧延の温度が250℃ではせん断集合組織が発達せず、280℃では焼鈍後(111)[110]集合組織が形成されることがわかっていたので、平成5年度は280℃と300℃で0.75mm迄温間圧延を行った。温間圧延の集合組織は、280℃以下ではその主成分が(001)[110]方位であるが、300℃では(111)[110]方位に変わった。そして、温度が高くなるほどせん断集合組織が板厚の中心まで深く浸透していた。熱処理は500℃にてソルトバスと恒温炉で行った。再結晶集合組織は表面層には板面に(111)面が大略平行に配列した方位成分が形成された。中心部はr値の結果から主としてR方位で、立方体方位は殆ど存在しないと考えられる。(111)再結晶集合組織は圧延集合組織のせん断集合組織成分から生じたものであろう。r値は平均値r^^-で示すと、4.0Mg-0.1Fe-0.1Si合金板では1以上、5.5%合金板では1.1以上の値が得られた。しかし面内異方性が大きく、45゚方向には優れたr値を示したが、特に圧延方向のそれが低かった。平成6年度は、大きなr値の面内異方性の原因を明らかにし、r^^-値として4.0Mg合金板では1.1以上、5.5Mg合金板では1.2以上の値を実現したい。そのため、最適の温間圧延の温度を見出し、集合組織の板厚を通しての不均一性を調べることを計画している。
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