鋼をアーク溶接するとき、溶接熱影響部(以下HAZと記す)になる領域においてフェライト(α)からオーステナイト(γ)への変態がきわめて急速におきる。そしてこの変態がHAZの冶金学的および機械的特性に大きな影響を与えることが予想される。この見地から本研究では次の4項目について検討を行った。(1)急速加熱時におけるα/γ変態温度の変化、(2)α/γ変態時のオーステナイトの生成過程、(3)α/γ変態と不純物の粒界偏析との関係、(4)α/γ変態がHAZの機械的性質におよぼす影響の得られた研究成果は次のとおりである。 (1)HAZにおける熱履歴を小鋼片に再現してしらべる方法を提案した。この実験に用いる主要設備として、超高速変態再現装置を開発した。この装置によれば、約2000°C/secの加熱速度を得ることが可能である。 (2)鋼のα/γ変態の開始(Trs)および終了温度(Trf)は加熱速度とともに上昇する。1E/4Cr-1/2Mo鋼の場合、およびTrfはそれぞれ740°Cおよび850°Cであるが、2000°C/secの急速加熱によってそれぞれ810°Cおよび1120°Cまで大きく上昇することが知られた。 (3)Cr-Mo鋼におけるα/γ変態の過程として、次のことがわかった。最初に、旧オーステナイト粒界に沿って微細な新生オーステナイト結晶粒は発生する。次にこの結晶粒が互に数珠状につながり、最終的に塊状のオーステナイト結晶粒となって変態を終了する。このほかラス状オーステナイト粒が成長して塊状結晶粒に至る場合もある。 (4)鋼のα/γ変態の際にモ-ステナイト粒界にりんなどの不純物が偏析する。加熱速度が大きいほど、粒界のりん濃度は高くなる。ただしりん濃度が最大値になるのは変態終了時ではなく、その直前である。 (5)HATのクリープ試験において、旧オーステナイト粒界で破壊を生じる。この現象は急速なα/γ変態に伴う不純物の偏析に起因する。
|