原子法レーザー同位体分離では、原料である金属を高温に加熱して、原子蒸気を発生させ、これにレーザーを照射することにより、濃縮すべき同位体を選択的に励起、電離し、生成されたイオンを回収する。この際、高温状態にある原子蒸気は、基底準位のみならず、熱的な励起により準安定準位にも分布することになる。このことは、分離過程において全体的な効率を低下させる原因になる。レーザー照射により、金属表面から瞬間的に蒸気を発生させる方式では、断熱膨張による冷却作用が期待でき、基底準位の分布密度を通常の方法におけるよりも高め得る可能性がある。 以上の観点から、本研究では、レーザーによる蒸気生成の基礎的な実験を実施した。 1.大気中におけるレーザー照射実験により、生成プラズマ等からの発光スペクトルの時間変化を測定することにより、その挙動を調べた。副次的な成果として、大気中でホウ素金属にレーザー照射した場合にBO分子からの発光が可視域で確認された。この分子の同位体シフトが大きいため、このような手法によりホウ素の同位体比測定が容易にできることがわかった。 2.真空中における金属(ガドリニウムおよびジルコニウム)へのレーザー照射実験において、プラズマおよび中性原子密度の時間変化等を調べた。ジルコニウムを用いた実験において、複数の励起準位からのレーザー誘起蛍光強度を調べることにより、実施した実験条件下では内部温度が2000K〜2500K程度となっていることがわかった。冷却効果を高めるためにはさらに工夫が必要である。また、副次的成果として、励起準位の自然放出寿命等が得られた。
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