副腎皮質細胞のステロイドホルモン合成を促進する物質としてACTH、ATP、アンギオテンシンIIのいずれを用いた場合でも、単一細胞で細胞内カルシウムイオン濃度が上昇するのが観測できた。ACTHを用いて観測できたのは世界で初めてである。どの物質を用いた場合でも、細胞内カルシウム濃度の変化する細胞と変化しない細胞とが観察された。ステロイドホルモン合成酵素であるチトクロムP450sccやP450c21、3βヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼは、カルシウム濃度の変化する細胞には認められず変化しない細胞に多かったので、カルシウム濃度の変化する細胞では直接ステロイドホルモンを合成していないことがわかった。共焦点レーザー顕微鏡で細胞を断層撮影をしてカルシウム濃度の変化を調べると、カルシウム濃度は細胞質だけではなく核内でも変化しており、カルシウム信号が核にも届いていることがわかった。 ミトコンドリアにおけるステロイドホルモン合成をおこなうチトクロムP450sccに対する電子伝達蛋白質、アドレノドキシン(ADX)、アドレノドキシン還元酵素(ADR)を活性を失うことなくリン光色素で標識することに成功した。そして、ADXとADRの運動をリン光異方性測定で観測し、P450sccとの相互作用をリポソームとミトコンドリア内膜で調べた。その結果、これら3つの蛋白質、P450scc、ADX、ADRは3者複合体を形成しその中で電子伝達を行っていることがわかった。
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