研究概要 |
最近X線CTスキャナーを使って脳などの静止断層像ばかりでなく,心臓など他の臓器の撮影も行われるようになってきた.そして、超高速X線CTが開発され,そうした傾向は強まってきている.しかし、被写体が動く場合スキャン速度が相対的に遅ければ,この動きによるアーチファクトが発生する.点被写体が並進運動または回転運動するときに生じるこの種のアーチファクトは,本質的にサイクロイドとなることが,本研究ではじめて解明された.この事実を利用し,種々の形態の被写体のCT画像から逆にその運動の種類(並進運動または回転運動)と方向その他を推定できることを示した.これらの結果の詳細は研究成果報告書(冊子体)に記した.他方,本研究を推進している途中で、X線のコンプトン散乱にもとづく新しいCT装置の開発の可能性に気づき,その撮影原理の基礎について研究した.X線をある物質に照射したとき,コンプトン散乱の断面積はその物質の電子密度に比例する.このことから,人体に放射線光子を照射し,対外に放出される散乱光子を計測することによって体内物質の電子密度に関する情報を得ることができる.この可能性は30年ほど前に開発されたが,医療診断へ応用するには種々の問題点を解決しなければならない.その一つが多重散乱線によって引き起こされる電子密度分布におけるぼけの問題である.多重散乱線は,被写体の形状,大きさ,それを構成する物質の種類,照射X線のエネルギー,撮影システムの散乱線の検出方法など多くのファクターに依存する.これらの要因が多重散乱線にどう影響するか本研究の後半ではEGS4というシミュレーターを使って検討した.そして,2種類のコリメータとエネルギーウインドウを検出器部に配置することで,これらの問題が解決できる可能性を示した.そして,人体頭部を想定した水球ファントムを用意し,内部にある2個のアルミニュウム小体をこの方法によって画像化できることを確認した.この方法によって,電子密度画像を作成する装置(ハードウエア)を開発するための基礎的なデータが得られた.このことについても,研究成果報告書(冊子体)に報告した.
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