研究概要 |
灰長石巨晶は、伊豆七島から東北日本を経て北海道-千島列島に連なる火山フロントに産するが、世界的にはこのような広域の産出は類例を見ないもので、その地質鉱物学的意義を説示する。島弧の19ヶ所から採集された試料を検討した結果、次のような考察を得た。1)大きさは約1cmから最大5cm、2)色は無色透明、部分的に赤色、薄黄色、3)自形を呈し、単結晶か貫入および接触双晶などで産出、4)裂開を伴う、5)径が2、3m以下の融食形をしたカンラン石を包有、6)新第三紀から第四紀の輝石安山岩から玄武岩に産出する、7)西南日本からは発見されない。これらの巨晶はCaFeSi_3O_8,CaMgSi_3O_8,[]Si_4O_8,Al(Al_3,Si)O_8の微量端成分を含み、An成分だけでは約An_<94>からAn_<89>の範囲からなる。化学的な累帯構造はなく、光学的に均一で、その結晶構造はγ角から低温型と推定される。赤色灰長石は、伊豆七島から糸魚川-静岡構造線の東縁部に沿って産出し、黄色灰長石も、風じライン上の産地から採集される。赤色灰長石からは、銅、亜鉛、真鍮の金属やメチレン系の炭化水素が観察され、その包有カンラン石や、また黄色灰長石からもメチレン系の炭化水素が検出された。さらに海溝から背弧にかけての巨晶の微量元素は、Sr量が200ppm以上含まれ、包有されたカンラン石のFeO/MgO値も巨晶の^<87>Sr/^<86>Srの同位体比も、海溝から背弧にかけていずれも増加する傾向にある。また巨晶の自形性は、同じ炭化水素を包有する破断形斜長石巨晶が産出する北アメリカ大陸西縁辺部の大規模な爆発的な火山作用と島弧のマグマ・プロセスとの違いを暗示する。この結果、灰長石巨晶は、包有カンラン石とも、スラブ堆積物と混合したマグマからの晶出として解明され、島弧のマグマティズムは、沈み込み帯のテクトニクスを背景とした、遷移金属や炭化水素を含む珪酸塩メルトからの鉱物の成因が大前提となる。
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