平成5年度に作成した火山ガス化学組成遠隔測定装置について、その性能を調べ、実際の火山観測を重ね、測定法を確立する上での問題点を観測機器やデータ処理の両面から検討した。野外観測は、昨年度も実施した雲仙火山に加え、阿蘇火山、九重硫黄岳火山において行った。 本研究では、火山ガスから放射される赤外光を赤外望遠鏡で集光した後、フーリエ変換赤外分光計に導入し、赤外スペクトルを得るシステムを開発した。雲仙火山の観測結果では、SO_2とHClの吸収スペクトルを得ることに成功し、各成分の絶対濃度は求められないが、SO_2/HCl比が算出でき、火山ガス中のSO_2/HCl比の遠隔モニタリングが可能になった。ちなみに、火山ガス中のHClのリモートセンシングによる検出は、本研究が世界で最初である。本研究で開発した方法では、赤外吸収スペクトルで火山ガス中の化学成分を検出しているので、火山ガスの背後に赤外光源が必要である。雲仙火山の場合、山頂で成長しつつある溶岩ドームの前面から放出する火山ガスを観測でき、溶岩ドームの熱を赤外光源に用いることができた。阿蘇火山では、火口壁から火口底を見おろして観測ができ、火口底に溜っている70℃位の熱水を赤外光源として、火口内に充満しながら放出している火山ガスの吸収スペクトルを観測できた。 本方法では、火山ガスが大気中へ拡散してからのガスを観測しているので、噴気孔内のガス組成から変化している。特に、H_2Sは大気中でSO_2に酸化される可能性がある。箱根火山の噴気孔ガスで大気による酸化を実験的に調べたところ、H_2Sの急速な酸化を確認し、遠隔観測で検出されるSO_2は、H_2Sが酸化したものも加えられていることが分かった。
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