同位体地学的研究により、マントル-地殻系の化学システムにおける物質移動を解明することが本研究の目的である。主な成果は次の通りである。 1.日本で先カンブリア紀の年代を示す唯一の例である、美濃帯の上麻生礫岩の片麻岩礫・花崗岩礫について、Sm-Nd同位体系・La-Ce同位体系・希土類元素存在度パターンの詳細な検討を行ない、日本列島の先カンブリア紀基盤岩の化学的進化に関して次の結果を得た。(1)片麻岩のprotolithは、LREE-depleted mantleから始生代末の約26億年前に、大陸地殻の一部として形成された。(2)このprotolithから約21億年前に花崗岩が分化し、そして(3)この花崗岩が18-16億年前に変成作用を受け片麻岩となった。この18-16億年前の変成作用の間には希土類元素パターンは、ほとんど変化しなかったと考えられる。上記(1)の大陸地殻の進化の過程では、マントルから地殻への物質移動が認められるが、(2)・(3)の過程は地殻内での作用と考えられる。 2.北太平洋の海水のCe・Nd同位体比、希土類元素存在度パターンを求めた。この海域では、主として正のepsilon_<Ce>、負のepsilon_<Nd>を示すが、希土類元素パターンでCeの正の異常を示す表面海水のみが負のepsilon_<Nd>の値を取ることを明らかにした。この結果は、海洋起源のCeが大陸起源のCeよりも還元されやすいことを示している。この研究は海水のCeについての始めての本格的な研究結果であり、沈み込み帯で物質移動の際の海水の関与を検討する上で貴重なデータである。 3.三宝山帯の古生代・中生代のケイ質堆積岩の地球化学的研究を開始し、堆積環境を考える指標の検討を行った。
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