研究概要 |
分子系や単一分子の動的挙動は,それらのもつ電子エネルギーの原子核配置に関する関数すなわちポテンシャルエネルギー曲面によって決まる.分子設計や化学反応制御を理論的に行うにはポテンシャルエネルギー曲面を高精度に求める必要がある.本研究者らは,比較的簡便にポテンシャルエネルギー曲面を精度良く記述できるMultireference Moeller-Plesset(MRMP)法を開発してきた.電子相関の本質は2体相関にあり,2体相関は本来Fluctuation Potentialによるlocalなものである.したがって2体相関はそれぞれ独立に扱えるはずである.しかし,参照関数が必ずしも良くないと,いわゆる電子相関には2つの効果がふくまれる.1つは電子間の‘衝突'による動的相関であり,他の1つはエネルギーの縮退や電子やスピン結合の組み替えによる静的相関である,縮退や電子の組み替えを表現するには多配置関数が有効であり,静的電子相関を取り込んだ関数から出発すれば,残りの電子相関の大部分は2つの電子の‘衝突'によるものである.これは数は多いが,2次の摂動法で評価しても十分よい近似になる.これがMRMP法の基本的考え方である.MRMP法は化学的精度で分子の電子状態を記述する理論である.本年度はMRMP法の理論的精度と有用性を確かめてきた.特に,ポテンシャル曲面と励起状態の計算に力を注いできた,現在のところきわめて良好な結果が得られている.また,非断熱遷移を起こすポテンシャル面間で交差線上での最安定点を決める新しい方法を開発してきた.交差線上の最安定点を求める問題は,ラグランジェ・ニュートン方程式について,核座標とラグランジェ未定乗数の微分がそれぞれ零になることに置き換えることができる.MRMP法と組合せ,現在プログラムを開発中である.
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