1.目的 本研究は、回折X線強度を精密測定し、研究代表者が開発した軌道関数間の規格直交条件を満たす最小二乗法で解析し、結晶中の原子軌道または分子軌道を求めること、および、X線回折法による電子密度測定・解析法を、希土類等を含む重原子結晶にまで適用可能にすることを目的として行った。 2.成果 本研究では、X線回折法で測定した強度データから求められる電子密度分布を、再現するように原子軌道を求める方法(X線原子軌道解析法とよぶ。)を確立した。この研究により、理論計算以外の方法で、原子軌道・分子軌道を求める新しい道が開拓された。この方法で、^2原理的には分子軌道も求めうる(X線分子軌道解析法)が、大量の計算時間を要したためX線分子軌道解析は研究期間内に確立できなかった。しかし、以下の点により、X線分子軌道解析法の確立は時間の問題となった。(1)簡単な有機結晶では、多数の反射で、二中心電子の構造因子への寄与が測定誤差より大きい。(2)二中心電子に対する温度因子を定式化した。(3)X線原子軌道解析に適当な基底関数(Well-tempted GTF)が見つかった。 解析法の高度化に伴い、測定精度の向上が必要となる。そこで冷却窒素気体吹き付け法による低温強度測定法を改善した。また、各反射につき数個から数10個の逆格子点が同時反射を起し、重原子結晶では容易に1%以上の誤差が生ずることをPtP_2結晶で示した。そこで同時反射を避ける強度測定法を開発した。これをCeB_6結晶の測定に適用し、X線原子軌道解析を行った所、フーリエ合成図上のCe原子近傍の山が、4f電子によることが分かり、f-電子密度分布がX線回折法で測定出来ることが世界で初めて明示された。本研究により、重原子結晶の電子密度分布研究は進展した。
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