研究概要 |
共鳴多光子イオン化法と画像観測法を組み合わせた新しい実験装置を開発し、反応生成物の内部量子状態を完全に選択したうえで、その散乱速度ベクトル分布(微分散乱断面積)を測定する新しい実験装置の開発を行った。実験装置の空間分解能は、画像上で100ミクロン以下に達し、その結果、直径40mmの2次元検出器を用いた場合、速度分解能5%、角度分解能数度の性能が得られた。この装置を利用し、NO_2,N_2,O,OCS,塩化エチレン、臭化エチレン等の分子の光分解過程を詳細に研究した。さらに、散乱原子分子の角運動量の偏向状態まで分離検出する、実験的、理論的方法の開発を行った。理論では、角運動量の偏向を多重極モーメントで展開し、原子の場合、これをさらに磁気量子数分布で表現した。二原子分子については、Hund's case(a)と(b)の中間の結合様式に対する二光子吸収強度の厳密な取り扱いを行い、さらに多重極モーメント展開と組み合わせて理論を構築した。この理論を用いて、OCSの光分解によって生成するS(^1D_2)、N_2Oの光分解によって生成するO(^1D_2)、さらNO_2の光分解によって生成するNOの偏向状態の検出に成功した。これらの実験的、理論的手段は、科学反応の動力学的共鳴を探索する上で極めて強力である。共鳴を探索する系としては、水素原子の交換反応を選び、交差分子線装法を選択した。H_2SまたはHIの光分解により、輝度の高いパルス原子線を発生し、その性能を試験した。パルス幅は35nsと求められた。この水素原子線を、D_2やAr等の標的分子線と交差させ散乱される水素原子の検出を試みた。水素原子の背景雑音が大きかったため、装置を改良し、背景真空度を10^<-8>Torrまで高めたが、未だ充分でないようである。この改良については、今後の課題と考えられる。本研究により、動力学的共鳴を探索する理論的、実験的方法論が確立された。
|