研究概要 |
初年度で合成に成功したO=Fe^<IV>Chl^<+・>,O=Fe^<IV>Chl,Fe^<III>Ch^<+・>の配位子への重水素の選択的な導入を行い、クロリン骨格の電子状態に関する研究をNMRによって行った。その結果、O=Fe^<IV>Ch^<+・>におけるラジカル軌道はa2型であることが明らかとなった。また、高スピン型Fe^<III>Chl^<+・>ではピロリン水素が-180ppm付近に観測され、鉄のスピン(S=5/2)とラジカルスピン(S=1/2)間に強い反強磁性相互作用の存在が示された。一方、O=Fe^<IV>Chlでは二つのピロリン水素が14.6ppm,-14.2ppmに観測された。酵素系での実験結果によれば、O=Fe^<IV>Chlにおけるν_<Fe=O>の伸縮が815cm^<-1>と低波数に現われ、興味深いことに同位体シプト(Δν)が46cm^<-1>と異常に大きな値を示しており、それはクロリンという特殊な配位環境が影響していると考えられてきたが、モデル系による結果はν_<Fe=O>が846cm^<-1>であり^<18>Oによるシフト値は34cm^<-1>であった。以上の結果から酵素系で観測された化学種が O=Fe^<IV>Chlでなく、Fe^<III>(O_2^<2->)の可能性が示唆される。 O=Fe^<IV>Por^<+・>とO=Fe^<IV>Chl^<+・>の反応性をオレフィンのエポキシ能により評価したところ、O=Fe^<IV>Porが圧倒的に高い反応性を示した。このことはCytochromedがオキシターゼ活性を示すためには、高い酸素添加能を有する必要のない事実と良く一致した。逆にいえば、酸素添加酵素であるcytochrome P-450においては、ポリフィリン錯体である点がその活性発現に必要であることを示している。
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