研究概要 |
鉄クロリン錯体を活性中心に有するカタラーゼはE.coliやNeurospora crassa等から得られ、過酸化水素を水と酸素分子に分解する。本研究ではモデル錯体を用いてCompound Iの合成を試みた結果、-80。CでのO=FeIVTMC+・,O=FeIVTDCPC+・の直接観測に成功した。さらに、高スピン、低スピンのFeIIITMC+・錯体の合成に成功した。高スピン、低スピン状態のFeIIITMCカチオンラジカルのNMR測定から、ラジカル軌道がa2型であることが明らかとなった。ピロリン環上のプロトンが174ppmも高磁場シフトしていることから、鉄上の電子(S=2/5)とクロリン上のp-ラジカル間にantiferromagnetic couplingが働いていることが示された。 最も注目されるO=FeIVTMC+・やO=FeIVTDCPC+・とノルボルネンなどオレフィン類との反応は-80。Cでは進行せず、対応する鉄ポルフィリン錯体に比べて酸素添加能が大きく低下していることが明かとなった。 2)ヘムdと呼ばれるクロリン錯体を活性中心に有するシトクロームdは、ubiquinolから電子を受け取って酸素分子を水へと還元する末端酸化酵素の一つである。本研究では、ペルオキソ中間体及びd680と呼ばれるO=Fe(IV)錯体に注目し、それらのモデル錯体の合成と電子状態についての検討を行った。ペルオキソ錯体に特徴的なことは、ESRスペクトルがそれぞれg=4.24,4.23に強い吸収を示し、g=8.8,8.5に弱いシグナルを与えることである。この結果は、ペルオキソ錯体が異方性のあるFe(III)高スピン状態にあることを示している。
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