〈目的〉 紅色光合成細菌(Rps.viridis)や光合成光化学系II(PSII)の非ヘム鉄(Fe^<2+>)の役割については現在不明のままである。本研究では、PSIIの非ヘム鉄(Fe^<2+>)を除去した試料及びFe^<2+>をZn^<2+>で置換した試料を調製し、第一安定電子受容体(Q_A)-(Fe^<2+>)-第二安定電子受容体(Q_B)間の電子伝達と非ヘム鉄の配位状態及び酸化状態を調べ、この非ヘム鉄の役割を見い出すことを目的とした。特に非ヘム鉄を酸化した状態(Fe^<3+>)での、Q_A^-の生成消滅過程を10μs〜2msの時間領域のレーザーフラッシュフォトリシス分光法により観測し、また非ヘム鉄の酸化状態を低温(5K)EPR法により調べた。 〈成果〉 Q_A^-の生成消滅過程を325nmの波長を指標として調べたところ、半減期140μs程度と、2ms程度の緩和過程が見られた。この140μs程度の成分はQ_A^-→P680^+への電子伝達過程であることが解明された。さらにFe^<3+>の増加の割合と、この140μs成分の増加の割合は一次の比例関係にあった。 他方、強光照射環境下ではPSIIは、反応中心蛋白質複合体が光損傷(Photoinhibition)を受け解体し(光阻害)、それが再構築される現象が知られている。その光阻害の引き金は、Q_Aの二電子還元、すなわち、Q_A^<2->の生成であるらしいことが報告されている。非ヘム鉄を酸化した場合、第一安定電子受容体(Q_A)から反応中心(P680)への電子逆供与(Back Reaction)が促進される事実は、PSIIでの光化学反応中心蛋白質の光阻害防御機構(Q_A^<2->生成阻止機構)との関連性を示唆するものであり、今後の発展が期待できる。
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