光合成光化学系II(PSII)中で電荷分離により生じた電荷を再結合させるPSII内環状電子移動は反応性の高いラジカルを消去しPSII光阻害反応に防御的に働いていると予想される。本研究では分光学的測定を容易にするため、PSIIの集光性蛋白質を大部分除去し、さらに、Tris処理を行い、水分解系を失活させ光阻害環境を形成させた試料(TrisRC)とTrisRCよりFe^<2+>を除去した試料(-Fe^<2+>-TrisRC)とZn^<2+>置換した試料(Zn^<2+>-TrisRC)を開発した。 (1)レーザーフラシュフォトリシス法による測定で人工電子供与体Mn^<2+>を加え、通常の直線状電子移動のみ起こる条件にすると消滅する半減期100-200μsの成分をP680^+再還元過程とQ_A^-再酸化過程で共に観測した。これらの成分は共に酸化還元電位依存性(Em=420-470mV)を示し、高電位側で増加した。これはCyt-b559の高電位型の酸化還元電位とほぼ対応した。また、それぞれの100-200μs成分の量はTrisRCが-Fe^<2+>-TrisRCとZn^<2+>-TrisRCの約2倍であり、pH6.4を変化の中点として、高いpHでは増加した。このときTrisRCは-Fe^<2+>-TrisRCとZn^<2+>-TrisRCの約2倍のpH変化を示した。これらの事実からPSII内環状電子移動に高電位型Cytb-559及び非ヘム鉄が関与していることが初めて明らかとなつた。 (2)上記試料を用いての光阻害実験では、還元側阻害のモデル系として、人工電子供与体Mn^<2+>を加えた条件、酸化側阻害のモデル系として人工電子受容体フェリシアナイドを加えた条件で行った。その結果、β-カロテンはMn^<2+>がある場合、反応中心当たり8個中6個が半減期1分以下で損傷し、残り2個が緩やかに損傷した。このときPQ_Aは6個のβ-カロテンがほぼ破壊された後、脱離を開始した。 また、β-カロテンは、環状電子移動量とも密接な関係があり、光阻害時に電荷の緩衝的機能を持つことが明らかとなつた。
|