強い電子格子相互作用に特徴を持つ新しいハロゲン架橋一次元金属錯体の実現を目指し、構造的に揺らぎをもつ部分酸化型一次元金属錯体の作製を試みている。 ハロゲン架橋一次元ニッケル錯体について、架橋ハロゲンよりも大きなサイズを持つ過塩素酸イオンを外圏イオンとして導入することにより構造的な揺らぎの実現が期待され、その結晶化を試みた。電気化学的結晶化の条件を検討した結果、{Ni(en)_2Br}(ClO_4)_2の組成を持つ臭素架橋一次元ニッケル錯体の単結晶作成に成功した。超格子反射が観測され結晶構造解析はまだ成功していないが、一次元方向の格子定数から平均のNi…Ni原子間距離は5.387(3)Åであり、一次元Ni^<III>-Br-Ni^<III>錯体の5.516Åより有意に長くなっている。このことは、今回得られた一次元ニッケル錯体はNi^<II>-Br-Ni^<IV>混合原子価錯体であることを強く示唆している。今後、光物性および磁気物性の測定により電子状態を解明し、結晶構造解析も行う。 また、電気化学的結晶化において、結晶化の条件を制御することによりニッケル3価の単核と複核錯体を含む単結晶の作製に成功し、X線構造解析よりそれらの錯体が一次元金属錯体の部分構造と見なせることを明かにした。今後、単結晶の磁気的測定を行いNi^<III>上のスピン間に働く磁気的相互作用の強さを求め、一次元錯体の磁気物性の解明を行う。 その他、金属錯体を連結する架橋子としてハロゲン以外の原子団の導入を試みている。一次元Pt^<II>-Pt^<IV>混合原子価錯体についてSCN^-を架橋子とすることに成功し、X線構造解析によりSを架橋子とする一次元鎖状構造を明らかにした。 これらの結果について、現在論文の投稿を準備中である。
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