ゼオライトや層状ケイ酸塩などは、結晶中に一次元や二次元の微空間を持つナノコンポジットマテリアルとして古くから知られているが、近年、分子機能発現の場としての活用が期待されている。本研究では、粘土層状結晶の一つであるサポナイトの層間に、ニトロニルニトロキサイド陽イオンラジカル、p-およびm-MPYNN^+のインターカレーションを試みた。サポナイトは八面体酸素酸の上下に、四面体酸素酸を重ねた構造をとっている。この層状結晶では、層格子は負電荷を帯びる一方、K^+やNa^+などの陽イオンが層間域にあり、層と層とを弱く結びつけている。この層間にあるイオンは種々の有機イオンとの交換が比較的容易で、p-およびm-MPYNN^+-サポナイト系においてもその6〜7割が有機ラジカルイオンで置き換えられていることが分かった。磁化率の温度依存性を検討したところ、バルク結晶で見られた分子間相互作用が消え去り、全温度領域でほぼキュリー則に従う常磁性的な挙動を示した。キュリー定数はインターカレーション曲線から得られたスピン濃度とほぼ一致しており、有機ラジカルに化学的な分解はなく、層間でも安定に存在していることが示された。ゲストのバルク結晶で見られた分子間相互作用が消え去り、層間ではゲスト間の力よりホストーゲストの相互作用が支配的であることが分かった。また層間に存在するカチオン交換サイトは、かなり均一に分布していることも読み取ることもできる。有機ラジカルのインターカレーションは、機能性の発現という面ばかりでなく、層間の化学的な状態を知るためのスピン・プローブとしても有用であることが分かった。
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