有機光伝導体について物性発現機構の解明や高特性物質の探索を目指し、価電子領域よりも著しく実験情報の欠如している空準位の電子構造を直接的に観測するため、昨年度からの2年間、本研究を行なった。 真空中で単色の低エネルギー電子を固体(薄膜)試料に照射し、低い空準位への電子緩和に伴う真空紫外発光を検出する、その測定原理から詳しく検討して設計を行ない、測定室、電子銃格納機構、検出系、試料搬送機構、試料調製室などからなる超高真空装置について、昨年度末には最終的な組立て段階に到達していた。 これをうけて、今年度は各部分と測定系全体の調整から開始した。中でも、紫外光電子放出の光電子検出効率の十万分の一も低い光検出効率に対しジョンソン型電子銃を大幅に設計改良した高輝度低速電子銃に、設計段階では予期しえなかった問題点を見いだし、それを克服するため電子銃の中核部分を作り直した。真空紫外光の検出感度についても東京大学物性研究所の専門家からごく最近の計測技術の進歩に基づく助言を得て、集光系の改良と検出器初段の高増感を図った。ところが、有機物試料の電子線損傷の軽減を意図した基板冷却機構が十分に働かず、その対応中に事故が起こり装置の超高真空が維持できなくなった。種々修復を試みたが奏効せず、製作所(在大阪)に回送して原因究明に当たった結果、主バルブに真空漏れのあることが判った。その代替品を(海外)請求中に兵庫県南部地震の影響を被って他にも問題が発生し、オーバーホールを余儀なくされて意想外の時間を費やしたが、年度末時点でほぼ改修再建を完了しつつある。 以上のとおり、当初計画した有機光伝導体の実測にまでは至らなかったが、その空準位を直接観測しうる有力な実験装置を本補助金の助成により製作できた。今後、これを駆使して当初の目的達成に努めたい。
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