研究概要 |
[1.1.1]プロペランは、構造上その橋頭位原子間には通常のσ,πといった化学結合は生成しえずその結合状態について多くの議論がなされ、世界的にも最も興味のある問題の一つとなっている。私共の研究の目的は、[1.1.1]プロペランと等価なビシクロ[1.1.1]ペンタン分子を橋頭位にケイ素又はゲルマニウムを有し架橋原子として硫黄やセレンに代表されるカルコゲン原子を用いて合成し、その構造をX線結晶構造解析により決定し、その金属-金属原子間距離を調べることにある。興味深いことに、2,4,5-トチリア-1,3-シンラビシクロ[1.1.1]ペンタンに関しては既にGordonらにより理論計算がなされており、その結果ケイ素-ケイ素原子間距離は2.37Aとなることが予想されており、その実験的な結果が待たれていた。今回私共は、ケイ素上に嵩高い置換換基であるトリス(トリメチルシリル)メチル基を導入することにより2,4,5-トリチア-1,3-ジシラビシクロ[1.1.1]ペンタンを合成し、そのX線結晶構造解析に初めて成功した。その結果、ケイ素-ケイ素原子間に結合がないにもかかわらず、その原子間距離は2.41Aとなっており、通常の単結晶距離とほぼ等しいことがわかった。この値は既に私共が報告している2,4,5-トリセレナ-1,3-ジシラビシクロ[1.1.1]ペンタンにおけるケイ素-ケイ素原子間距離に比べ約0.1A短くなっており、これ程短いケイ素-ケイ素原子間距離は、これまで例がない。また、このゲルマニウム類似体の合成についても現在その前駆体である2,4,5,6-テトラチア-1,3-ジゲルマビシクロ[1.1.2]ヘキサンの合成に成功している。
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