研究概要 |
1.生体系における酵素の反応中心の環境と類似する反応場として注目されている逆ミセルの特異性を明らかにする目的で、[Ni(tmc)]^<2+>(tmc:1,4,8,11-tetramethyl-1,4,8,11-tetraazacyclotetradecane)をプローブとして逆ミセルの内水相に溶解させ、そのソルバトクロミズムと溶存状態との関係を解析した。 2.界面活性剤として塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)を溶解した6:5(v/v)クロロホルム/シクロヘキサン溶液に、[Ni(tmc)](ClO_4)_2水溶液を分散させて逆ミセル溶液を調製した。逆ミセルの大きさを決める主因である水とCTACのモル比R=[H_2O]/[CTAC]([H_2O]は一定)を変えて錯体の可視吸収スペクトルを測定した。このとき逆ミセルが相分離を起こさないようにするためMg(ClO_4)_2を添加した。また、通常の水溶液中で高濃度の(CH_3)_4NClを添加してソルバトクロミズムを比較検討した。 3.[Ni(tmc)]^<2+>は赤色の平面4配位錯体で、一方のaxial位からH_2OまたはCl^-が配位することによって緑色の5配位錯体になる。Mg(ClO_4)_2の添加のスペクトルへの影響は小さいものであった。R≧15の逆ミセルでは通常の水溶液中でのCl^-濃度を著しく高めた場合([(CH_3)_4NCl]=3.65M)とほぼ同じ錯体分率(4配位錯体:H_2O配位:Cl^-配位=3:3:4)のスペクトルが得られた。CTAC濃度の減少に伴って、5<R≦15では、Cl^-の配位が増大する一方、Cl^-の配位による5配位錯体の吸収ピークのシフトが観測された。R≦5の場合、Cl^-の配位による423nmでの吸光度が増大し、4配位錯体の512nmの吸収ピークがほとんどなくなり、R=2付近ではH_2Oの配位による393nmでの吸収も見られなくなった。以上のことは、逆ミセルの内水相が極めて高いイオン強度を持ち、特にR<5ではCl^-の配位能力は極めて高く、通常の水相では不可能な完全5配位錯体スペクトルを得ることができることが明らかとなった。
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