金属アルコキシドを原料とするゾル-ゲル法は、薄膜の作製法として高いポテンシャルを有しているが、金属アルコキシドの反応性が高い、微細加工が困難であるなどの問題点がある。これに対して、金属アルコキシドをβ-ジケトンで化学修飾すると、プロセスが簡便になるとともに、生成する光感応性ゲル膜の光分解を利用して、薄膜の微細加工が可能となる。本研究は、β-ジケトンによる金属アルコキシドの安定化過程と、生成するゲル膜への紫外線照射効果を明らかにし、新しい微細加工法を開発することを目的として行ったものであり、以下のような知見を得た。 (1)アセト酢酸エチルで化学修飾したA1-アルコキシドから生成するAl_2O_3ゲル膜は、270nm付近にキレート結合による吸収バンドを有するが、ベンゾイルアセトンで化学修飾した場合は325nm付近にシフトし、高圧水銀灯による励起効率が向上することを見いだした。 (2)化学修飾したZrO_2、TiO_2、およびAl_2O_3ゲル膜について、光分解の速度過程を熱分解過程と比較し、いずれの場合もキレートの分解過程は一次反応で、最終的なゲル膜の構造も同じであるが、光分解の反応速度は熱分解の場合に比べて極めて速いことを見いだした。 (3)化学修飾法により生成するPbZrO_3-PbTiO_3系(PZT)ゲル膜に対する紫外線照射効果を検討した結果、ZrO_2やTiO_2薄膜と同様に紫外線照射により特性が変化することを見いだし、多成分系のPZT強誘電体薄膜でも微細加工が可能であることを明らかにした。 (4)化学修飾したゲル膜への紫外線照射により、染料を含むSiO_2ゾルに対する漏れ性が変化することを見いだし、この現象を利用すると選択的着色コーティングが可能となることを明らかにした。
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