研究概要 |
ステンレス合金上に生成する不働態皮膜に相当するFe_2O_3‐Cr_2O_3‐NiO系複合酸化物薄膜を基本とし、これにTa_2O_5を添加することで自然には生成しない極めて高耐食性の人工不働態皮膜を合成し、極薄防食被覆を実現すること目的とした。得られた成果は以下の通りである。 (1)Fe_2O_3‐Cr_2O_3‐NiO系複合酸化物薄膜の合成と耐食性評価:4元系までの複合酸化物薄膜を合成することができる低圧(LP)MOCVD装置を作製し、これを用いてFe_2O_3‐Cr_2O_3‐NiO系複合酸化物薄膜を合成した。皮膜の耐食性を5M‐HCl中での浸漬腐食試験と、1M‐H_2SO_4溶液中での定電位分極下のin-situエリプソメトリー解析によって調べた。Fe_2O_3‐Cr_2O_3およびNiO‐Cr_2O_3薄膜の溶解速度はCr(III)のカチオン分率X_<Cr>の増加と共に指数関数的に減少すること、皮膜をカソード分極するとFe_2O_3の還元溶解が起こり、アノード分極するとCr_2O_3の酸化溶解が起こるが、その中間にいずれの酸化物も溶解しない極めて耐食性の高い電位領域が存在すること、などが分かった。 (2)Fe_2O_3‐Cr_2O_3‐Ta_2O_5系複合酸化物皮膜の合成と耐食性評価:Fe_2O_3‐Cr_2O_3‐Ta_2O_5複合皮膜を合成し、1M-H_2SO_4溶液中の溶解速度を定電位分極下でin‐situ測定した。その結果、Ta(V)のカチオン分率X_<Ta>を0.2以上にすることによりCr_2O_3の酸化溶解は著しく抑制され、広い電位範囲で優れた耐食性を示すことが分かった。 (3)Fe上に形成した防食被覆の耐食性評価:Fe_2O_3‐Cr_2O_3皮膜(X_<Cr>>0.5)およびFe_2O_3‐Cr_2O_3‐Ta_2O_5皮膜(X_<Cr>>0.3,X_<Ta>>0.3)を純Fe基板上に形成し、H_2SO_4、NaClおよびNaOH溶液中における活性化時間を測定した。活性化時間は膜厚を増すほど増加し、70〜100nmで最大になった。これらの結果より、Fe_2O_3‐Cr_2O_3皮膜(X_<Cr>>0.5)やFe_2O_3‐Cr_2O_3‐Ta_2O_5皮膜(X_<Cr>>0.3,X_<Ta>>0.3)を70〜100nmの厚さに形成することで高耐食性が得られることが分かった。
|