研究概要 |
環境・医療・先端材料等の分野における化学計測に高い感度と選択性が求められる現在,濃縮・分離のための前処理法の開発が重要な課題となっている.本研究では,従来困難であった最終容積μlレベルへの高倍率濃縮を容易に達成できる一滴溶媒濃縮法を開発した.目的化学種を含む有機相(揮発性)に高沸点溶媒(難揮発性)を少量添加して,前者を蒸発除去すると目的成分が高沸点溶媒に定量的に濃縮されて残り,一定かつ微小体積への高倍率濃縮と溶媒の置換とが同時に実現できる.この蒸発過程で揮発性溶媒がビーカー器壁をリフラックスする現象によって,目的化学種が自動的に一滴の最終溶媒中へ洗い込まれ,極めて簡便に高倍率濃縮が達成できる 本研究の具体例では,微量成分の高感度・高選択的定量法として近年顕著な進展を遂げつつある逆相(RP)HPLCへ一滴溶媒濃縮法を導入し,pptレベルのコバルトの定量に成果を得た.本法では,2,2'-ジヒドロキシアゾベンゼン(DHAB)-コバルト錯体をクロロホルムヘイオン対抽出し,分相した有機相に高沸点水溶性溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)100μlを添加した後,クロロホルムを蒸発除去してDMSO中へ目的錯体を濃縮し,イオン対逆相分配モードのHPLCへ導入した.なお,1000倍の高濃度化を図り,かつRP-HPLCに適した水性溶媒へ置換する際,溶解度問題に対処するために,試薬DHABは中性種としてクロロホルムへ抽出され,一方コバルト錯体,[CoL_2]^-,はイオン対として抽出されるという挙動の差異を利用して両者の分離を図った。また,濃縮-HPLC法のもうひとつの問題点である注入試料中の溶媒がピークプロファイルに与える影響については,1:1水-DMSO混合溶媒を用いることで良好な適合性を得た.本法によるコバルトの検出限界(から試験値の3σ)は1.8pptであった.
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