研究概要 |
イオンチャンネルなどの膜タンパク質は、αヘリックスを形成する数本のペプチドセグメントが膜を貫通して埋め込まれ、イオン透過のポアを形成するなどの機能が発現すると考えられている。しかし、それらの脂質膜中での構造を分光学的に明確に解析した例は少ない。そこで、ペプチド分子のシグナルを選択的に取得できる極紫外共鳴ラマン法について、脂質膜中でのペプチド分子のコンフォメーション解析に対する有用性について検討した。 脂質膜に分配されるペプチドとして疎水性αヘリックス形成ペプチド、Boc-(Ala-Aib)_n-OMe(n=2,4,8)を選んだ。8及び16量体ペプチドは脂質膜中で膜電位依存性イオンチャンネルを形成することが示されている。脂質膜中でのペプチドの極紫外共鳴ラマン測定を行って、アミドI、II、III、Vの各バンドが観測された。測定された波数より構造を検討したところ、4量体はランダム、8量体は3_<10>、16量体はαヘリックス構造をとることが示唆された。更に、脂質膜中でのペプチド分子の濃度を変えて測定を行ったところ、アミドVの波数が濃度の増大とともに高波数側にシフトしペプチド分子の脂質膜中での会合が示唆された。これらのことを調べるためQUANTA,CHARMmを用いて基準振動計算を行った。 線状8量体、16量体について、初期構造をαヘリックスとし、エネルギーミニマイゼーション、ダイナミクスを行った。また、2本の鎖を平行、逆平行に配置して同様の計算を行った。室温で安定なコンフォメーションを得た後、基準振動計算を更に行った。計算値と実測値の間に一致は見られなかったが、両者の間に系統的なシフトのあることが推察された。また、アミドVバンドについては、孤立鎖と2本鎖でシフトが計算より認められた。つまり、ヘリックス鎖の会合によりアミドVバンドの波数は高波数側へシフトした。これらのことより、16量体ペプチドは脂質膜中でαヘリックス構造をとり、会合してイオンチャンネルを形成することが支持された。
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