研究概要 |
193mmの励起光を用いる紫外共鳴ラマン分光法は、ペプチド分子のアミドバンドを選択的に観測できるために、種々の環境下でのペプチド分子やタンパク質の状態解析に対して有用である。本研究では鎖長の異なる定序配列ペプチドを用いて、脂質膜中でのコンフォメーションや集合体形成を紫外共鳴ラマン分光法で解析した。紫外共鳴ラマンスペクトルの測定はAr/Fエキシマレーザーを励起光源として用い、多重波検出法で行った。試料はアラニンとα-アミノイソ酪酸を交互に配置したBoc-(Ala-Aib)_n-OMe(n=2,4,8)である。ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)とペプチドとの薄膜を水中に分散させ、超音波処理によりリポソーム調製して測定を行った。また、基準振動の計算にはCHARMmを用いた。 DMPCリポ-ム中でペプチド分子のアミドI、II、III2Vのシグナルを観測できた。CDスペクトルによってα-ヘリックス構造が確認されているポリ(L-リシン)のアミドバンド波数と脂質膜中で観測されたBoc-(Ala-Aib)_8-OMeのアミドバンドの波数が一致したことにより、16量体は脂質膜中でα-ヘリックス構造をとっていることが確認された。その他、4量体は不規則構造を、8量体は3_<10>ヘリックスをとることが示唆された。また、観測されたアミドバンドの波数とペプチドの二次構造との間には相関関係があることも判明した。 会合体のモデルとして構築した二本並べたペプチド鎖は、分子動力学計算によって歪んだ構造をとることがわかった。また、基準振動計算結果に見られた、会合体でのアミドV波数の高波数側へのシフトは、脂質膜中においてBoc-(Ala-Aib)_8-OMeの濃度を高くしたときの結果と一致するものである。このことはペプチド分子が会合して構造が歪み、分子内の水素結合の数、或いはコンフォメーション安定化への寄与が減少する様子がアミドVの波数に敏感に反映していることを示す。
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