研究概要 |
本年度は,「ラングミュア・ブロジェット膜」作製装置を購入し、これを用いて世界で初めて無機物として粘土鉱物を対象に、無機と有機との複合化、累積化を果たすことに成功した。具体的には、まず始め粘土の凝集状態の詳細を様々な粘土を用いて調べ、その凝集状態の特異性や層構造の示す「水和膨潤性」を利用して,(1)粘土鉱物の積層する二次元骨格を完全にばらばらの状態に剥離する条件の探索研究を行った。その結果、スメクタイト系粘土懸濁水液中において、超音波などの物理的攪拌により、0.96nmの格子厚みをもつ平板状分散形態にある結晶を得ることができた。上述の結果を踏まえて、(2)純水中に高度に分散したスメクタイト系粘土懸濁液を作成、ラングミュア・ブロジェット膜作製装置における下層溶液とした。次いで,この溶液表面にステアリルアミンなどの棒状単分子を広げた。引き続いてこの分子をバリアで圧縮し,疎水基を上部に向けた単分子膜を形成した。つまり,下層溶液の界面にはステアリルアミンの親水基が接し,ここに同溶液内に分散する粘土の単位格子層が静電力によって吸着する形を実現させることができた。この状態で,(3)親水性のスライドガラスなどを基板として表面積-表面圧曲線に沿って垂直に引き入れて引き上げると,この基板上には,有機物と無機物とがナノオーダーで積層した超配向組織膜の形成できることを知見できた。加えて、これを繰り返すと粘土とステアリルアミンとが60層程度まで累積できることを示した。得られた膜の評価は、粉末X線回折法やトンネル顕微鏡観察などにより行い、累積の程度については、空間的なモデルに基づくシュミレーションから明らかにした。累積における分子配向の形態は、特に下層溶液のpH制御条件に敏感に反映されることがわかった。そこで、緩衝液としての燐酸塩や硫酸塩などの役割の詳細を検討した。 これまでに得た結果から、光学的な機能性の期待できる「芳香族化合物」に対する累積に関しても、ラングミュア・ブロジェット膜作製法の有効性が示唆されたものと考えている。
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