マクロリド抗生物質およびピラノナフトキノン系抗生物質は、ポリケチドを経て生合成されることが知られているが、いかなる種類のポリケチドがいかにして相当する抗生物質に導かれるかは明らかではない。そこで、本研究は、まず、環状ホリケチド(ポリケチドラクトン)に注目し、従来の1個ずつ不斉炭素を構築する方法と異なり、環状ポリケチドを合成した後、カルボニル基を立体特異的に還元して、一挙にマクロリド抗生物質のアグリコン部分を合成する新しい反応設計を目的とした。まず、14員環ラクトンであるオレアンドマイシンのC-13位以外のC-メチル基をもたない14員環環状ポリケチドを合成するために、その鍵中間体である三環式5-6-7員化合物を4-インダノールから効率よく合成した。さらに、その二重結合をオゾン酸化して目的の環状ポリケチドを得た。そのポリケチドの構造をX線結晶解析により初めて明らかにした。また、この環状ポリケチドをハイドライド還元して、3種類のテトラオール誘導体を主生成物として単離することができた。これらのX線結晶解析を行った結果、いずれもC3位と5位の水酸基がC13位メチル基とantiの関係にある非天然型立体配置を有していることが判明した。一方、上述の環状ポリケチドを分子内アルドール縮合させることにより、ピラノナフトキノン系抗生物質の基本骨格である連続三環式芳香環構造を構築する条件を種々検討した。その結果、抗真菌物質ナフトピラン類(たとえば、セミビオキサンチン)の基本骨格が主生成物として得られることが判明した。
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