本研究は、電界印加、光照射、加熱という多彩な刺激により、液晶相内での可逆的な液晶凝集状態変化を利用してスメクティック相の秩序性を顕著に変化させ、電気・光・熱モードによる情報の書き込み・消去機能を有する大面積・フレキシブル(高分子/液晶)複合膜の開発と工学的応用展開を計ることを目的としており、次に列挙する実績を得た。 1.(高分子液晶/液晶)複合膜の調製と熱的挙動:溶媒キャスト法により(高分子液晶/低分子液晶/光応答性低分子液晶)三元複合膜を作製した。種々の複合比の(高分子/液晶)複合膜に対して示差走査熱量測定、偏光顕微鏡観察、X線回折測定を行い、相図を作製した。相図に基づき、電気・光・熱記録を行うスメクティック相複合膜の特定を行った。 2.(高分子液晶/液晶/光応答性液晶)三元複合膜の電気・光・熱応答挙動:本申請研究で購入予定の瞬間マルチ測光システムを使用し、種々の波長、強度の光照射に伴う三元複合膜の可視・紫外吸光スペクトル変化から膜中での光応答性低分子液晶の光異性化を動力学的に評価した。これにより効率よく可逆的な光化学反応を起こさせる光の波長と強度を決定した。さらに複合膜の電界モード、熱モード特性を検討した。 3.光スイッチング測定:三元複合膜を透明電極にサンドイッチし、印加電界の周波数変化に伴う光透過-光散乱スイッチング特性を評価した。矩形波あるいは正弦波の駆動電界により周波数変調波を検討し、光透過→光散乱の遷移周波数及びその光照射依存性を評価した。 4.光散乱機構の解明:(高分子液晶/液晶)二元複合膜あるいはこれに光応答性液晶を加えた三元複合膜の光散乱状態から光透過状態への光遷移過程において、スメクティック層構造の時間分割X線回折測定を行った。これからスメクティック層構造の変形過程を評価し、光散乱の発生機構を構造論的立場から検討した。 5.光書き込み・消去特性:二種の波長の光照射状態における臨界電界周波数を検討する。光波長と電界の周波数の組合せにより、三元複合膜の光透過-光散乱のスイッチング特性を評価する。これらの実験に基づき、電界モード、フォトンモード、ヒートモードによるディジタル情報の書き込み・消去機構を検討した。
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