研究概要 |
長年に亘る研究の結果、休眠ホルモン(DH)の構造解明に成功し、DH-mRNA上に3種の機能未知SGNP類がコードされていることを見いだしていた。本研究はこれらペプチド類の化学合成から着手した。合成DHは天然DH探索の標品としてだけでなく、誘導体作成や抗体作成にも使用した。誘導体化条件の検討の結果、N末端のみを修飾する手法を開発することができ、脂溶性を付与した誘導体、蛍光や色素標識した誘導体、光親和性標識基で修飾した誘導体作成に成功した。抗体作成には2種の合成標品を用意し、認識部位を異にする2種の抗体を得た。また、合成SGNP類を標品とし、食道下神経節抽出物を徹底的に精査した結果、SGNP類が全て実在していることを証明できた。 次に、抗体との反応性や生物活性を指標として、新天然休眠誘導活性物質を探索した。その結果、蚕蛾頭部には、物理化学的性質の異なる複数の活性物質が存在することを明らかにでき、それらを高純度まで精製すると共に、その内の一種を構造解明することに成功した。この物質はDHを酵素分解から保護するという特異な機能を有する点で特徴的であるが、有機溶媒に可溶である点や、構造的にもVal,Ala,Proを異常に多く含み、繰り返し配列が多い点でも極めて興味深い。 一方、本研究で開発した合成技術を使い、DHの活性発現に必要な部分構造の特定を目指した。その結果、C末端構造としてはアミド型が必須であること、トリペプチドアミドが活性発現最小単位であること、およびそのN末端を修飾すると活性を増強できることを発見した。 これらの研究成果はDHの活性発現機構解明にとって物質的ならびに知的基礎を与えると共に、新活性物質設計や創製に重要な示唆を与えるものである。今後、本研究で蓄積した資産を基礎に、カイコ卵休眠という興味深い生命現象の生物有機化学的理解に向けて精進していきたい。
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