研究課題/領域番号 |
05453167
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小田 順一 京都大学, 化学研究所, 教授 (50027041)
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研究分担者 |
加藤 博章 京都大学, 化学研究所, 助手 (90204487)
平竹 潤 京都大学, 化学研究所, 助手 (80199075)
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キーワード | 抗体触媒 / エステル加水分解 / 活性アルギニン残基 / 可変領域 / 遺伝子クローニング / 分子モデリング |
研究概要 |
平成6年度は、エステルを高い立体選択性で加水分解するモノクローナル抗体について、その触媒機構および生成物阻害のメカニズムを明らかにすることを目的に、主として反応機構論的観点から研究を進めた。得られた抗体の触媒機構を探るために化学修飾を試みたところ、抗体1分子あたり2個のアルギニン残基が反応に必須であること、そしてその活性アルギニン残基はハプテンとの結合にも必須であることがわかった。そこで、この抗体の結合部位をコードしている遺伝子をクローニングし、抗体結合部位のアミノ酸配列を明らかにしたところ、重鎖(heavy chain)の3番目の超可変領域(CDR3)に、アルギニン残基が1つ存在することがわかった。さらに、得られた1次配列をもとに、抗体結合部位の分子モデリングを行なった結果、このアルギニン残基は抗原結合部位のほぼ中央に位置するばかりでなく、溶媒と自由に接触する位置にあることが示され、このアルギニンが反応を触媒する活性残基であることはほぼ間違いないと結論した。そして、結合部位にある活性アルギニン残基が、負電荷を帯びた反応遷移状態を電荷的に安定化することによって反応を触媒しているという反応機構を提出するに至った。 また、この抗体触媒は著しい生成物阻害を受け、数回のターンオーバーののち反応が事実上停止してしまうが、そうした生成物阻害の起こるメカニズムについてもこの活性アルギニン残基と関係づけて議論した。すなわち、エステルが加水分解されると負電荷を持ったカルボン酸が生成し、これが活性中心のアルギニンと強く電荷的相互作用するために著しい生成物阻害が生じると推定した。そこで、この仮説を証明するために、加水分解後、脱炭酸により負電荷を帯びた生成物が生じないよう工夫した炭酸エステルを基質にして反応を行なったところ、予想通り生成物阻害はほとんど見られず、100回以上のターンオーバーが観測された。以上のように、活性アルギニン残基が関与する触媒機構とともに、生成物阻害のメカニズムを含めて、抗体触媒の詳細な反応機構論を展開することができた。
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