加熱に不安定な食品の新規かつ有効な殺菌法の開発を目的として、数十気圧程度の加圧と急速な減圧を組み合わせたガス加圧瞬間減圧法によりパン酵母の殺菌を行い、その殺菌機構の解明を試みた。パン酵母の生菌率は加圧温度、圧力、接触時間、酵母の水分含量および使用ガスの水に対する溶解度に強く影響され、一般にこれらの因子がそれぞれ大きいほど高い殺菌効果が得られることが明らかとなった。本研究の測定範囲では40℃、40atmの加圧条件下、水分含量60%以上の湿潤酵母を水に対する溶解度の高い二酸化炭素ガスにより3時間以上処理したところ、最大の殺菌効果が認められ、パン酵母の生菌率を10^<-8>まで低下させることができた。しかし水分含量40%以下の乾燥酵母および水に対する溶解度の低い窒素ガスやアルゴンガスを用いた場合、生菌率の低下はほとんど観察されなかった。これらの結果より、本法の殺菌機構には微生物細胞に対するガスの吸着および脱着現象の関与が認められ、加圧時の溶解ガスによる生理的損傷効果および減圧時の脱着ガスによる機械的破壊効果が主因であると考えられた。 次にBacillus megaterium QMB1551の胞子を殺菌対象として選択し、加熱殺菌法に対して耐性を示す細菌胞子への本法の応用を試みた。その結果、60℃、70atm、24時間の二酸化炭素ガス処理により、その生菌率を4x10^<-4>まで減少させることができた。圧力の至適値が二酸化炭素の臨界圧(73atm)付近に存在することは興味深い事実であるが、これらの結果よりガス加圧瞬間減圧法は栄養細胞のみならず細菌胞子の殺菌にも有効であることが示された。
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