今年度の研究においては、実用上のことを考え、低温、低圧の条件における殺菌の実験の他、殺菌機構の解明を目的として異なるガスを用いた実験等を行った。 先ず、湿潤パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用い、ガスとの接触時間を一定(24時間)とし、温度(20℃-40℃)と圧力(10-39気圧)の組み合わせによる殺菌実験を行ったところ、一定の殺菌率を達成するには低温となるほど高い圧力が必要であった。CO_2、N_2O、N_2およびArの4種類のガスを用い、40気圧、40℃、4時間の処理でパン酵母を、60気圧、60℃、24時間の条件でBacillus megateriumの胞子を処理した。その結果、パン酵母についてはCO_2の他、CO_2ほどではないがN_2Oも有効であったが、胞子の場合はCO_2のみが有効であった。また、胞子の殺菌において臨界圧近傍に最適圧力のあること予想させる結果を昨年得たが、実験データの追加によりこのことを再確認した。しかし、圧力の最適値の存在理由は不明である。 位相差顕微鏡により、CO_2による加圧処理前後の胞子の形態の観察を行ったところ変化は見られず、胞子は元の形のまま死滅していた。さらに、加圧処理によってパン酵母および胞子から溶出するタンパク質量の測定を行ったところ、パン酵母の場合は加圧処理により約20%増加したが、この効果に対し減圧速度の影響は見られなかった。胞子からはタンパク質は溶出されなかった。このことは、パン酵母の場合には機械的破壊が生じているようであるが、それは加圧時に既に起きていることを意味している。
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