低温恒温庫を用いて酢酸菌を培養して帯状セルロース試料を新たに調製し、X線回折、固体CP-MAS 13C NMRによる分子構造解析を行なったところ、この物質は高結晶性のセルロースIIであることが確認された。ただし、この菌株の性質は通常の株に比してやや不安定であり、継代培養を繰り返すとセルロースIの成分が混入することがある。液体クロマトグラフィーによる分子量分布解析によれば、セルロースIの成分が多い試料では重合度1000程度の高分子量画分が多い。したがってこの帯状セルロース試料でセルロースIとセルロースIIが混じっている場合には、高分子量成分がセルロースI、低分子量成分がセルロースIIに対応していると考えられる。 帯状セルロースに対し酸による加水分解処理を行ない、不溶残渣を集めて分子量分析を行なったところ、重量平均重合度は出発物質では200であったものが19.5に低下し、分子量分布はMw/Mn比で1.1と非常に鋭いことが分った。この長さは以前の電子顕微鏡観察から推定された折り畳み周期(10nm)と完全に一致する。このことは、分子鎖の中で折り畳みによって鋭く曲った部分は、真っ直ぐな部分に比べて酸による攻撃を受けやすく、非常に速やかに切断されることを意味する。加水分解残渣を電子顕微鏡で観察したところ、水洗しただけの試料では帯状の形態はほとんど変化していなかったが、これを超音波処理すると、未処理のものとは異なって、容易に形態が崩壊し、微小な断片に細分された。これも上記の観察を裏付けるものである。 以上の知見によって、酢酸菌が作るこのセルロースIIが折り畳み構造に基づく反平行鎖構造をとっていることはほぼ確実となった。
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