超原子価ヨウ素化合物を用いる有機合成反応の開発とその応用を目指して、フェノールエーテル類への求核種導入反応の一般性と反応機構に関する研究ならびに新規環状超原子価ヨウ素試薬の開発とその応用として抗腫瘍性海洋天然物discorhabdin類の合成研究を研究計画に従い行った。申請者らは最近、フェノールエーテル類を高極性で求核性の低い(CF_3)_2CHOHあるいはCF_3CH_2OH中、超原子価ヨウ素試薬PIFAの存在下にアジドアニオンと反応させると芳香環上に直接アジド基が導入される反応を見出した。申請者らは本反応の中間活性種をUV、ESRなどの機器分析により検出することに成功し、本反応がC-T complexからラジカルカチオン機構を経て進行することを証明すると共に、この反応が窒素求核種だけでなく酸素、炭素、および硫黄求核種の導入の可能であることを見出した。一方、本反応において溶媒をCH_3CNに変えると芳香環ではなくベンジル位にアジド基が導入できることもわかった。さらに、前述の反応は酸化的フェノールカップリング反応への応用が可能で、芳香環の置換様式によりスピロジエノン類あるいは、その転位体が比較的収率良く得られ、ノンフェノリック型の基質の場合にはCH_2Cl_2中PIFA-BF_3・Et_2Oを用いると収率が飛躍的に向上することを見出した。本反応は各種アルカロイド類の合成に応用可能である。また、新規環状超原子価ヨウ素試薬の合成としては通常、反応活性なため単離が困難とされていた超原子価アジドヨウ素試薬やシアノヨウ素試薬などを環状ヨ-ジナンにすることで安定に単離、構造決定することができた。一方、discorhabdin類の合成研究においては、合成の困難なアミノチオアセタール構造の合成法として、4-アルコキシアゼチジノン類のRCN中での開環反応によるアミノチオアセタールの合成に成功した。また、硫黄官能基の新規導入試薬としてPhI(SAr)_2やPhI(SCN)_2の合成にも成功した。、また、申請者らは以前にPIFAを用いてdiscorhabdin類の必須構造であるアザスピロジエノン環の効果的な構築法を報告していたが、今回、本分子内閉環反応が一般性の高い反応であることを明らかにし、o-位あるいはm-位にアミノキノン側鎖を有するフェノール類からアザスピロジエノン類および1H-アゼピン類を各々選択的に合成することに成功した。
|