研究概要 |
アスパラギン酸プロテアーゼは生体において重要な働きをしており,active siteとしてアスパラギン酸を含有しているレニン,ペプシン等の一群の酵素の総称である.HIV-1プロテアーゼやHTLV-1(成人T細胞白血病ウイルス)プロテアーゼもアスパラギン酸プロテアーゼであり,我々はこの重要なアスパラギン酸プロテアーゼの作用機構研究から導かれた基質遷移状態コンセプトを基盤として阻害剤の分子設計の一般的な方法論を確立するため以下の研究を行った. 1.酵素の合成.HIVプロテアーゼは生化学的方法では大量の酵素が得られないので,現有のペプチド自動合成機により化学合成を行い,またCysをAlaに変えた誘導体も合成した. 2.阻害剤の分子設計.レニンとHIVプロテアーゼについては酵素と基質との相互作用の解析を行い,基質遷移状態誘導体の概念を基に水素結合,立体的,静電的及び疎水的相互作用を考慮した阻害剤のデザインを行った.レニンに対してはcyclohexylnorstatine型,HIVプロテアーゼに対してはallophenylnorstatine型isostereが阻害剤として有効であることを見いだした. 3.阻害剤の合成.光学的純度の高い阻害剤を合成し,Stereoisomerも合成した.レニンとHIVプロテアーゼでは同族の酵素であるが,活性中心における阻害剤の立体構造が逆であるという重要な知見を得た. 4.HIV-1プロテアーゼにおいては,基質ペプチドの合成を行った. 5.阻害活性の測定.合成したプロテアーゼ及び合成基質を用いて酵素活性測定系を確立し,この系を用いて合成阻害剤の阻害活性の測定を行なった.
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