本研究課題の2年目にあたる平成6年度は、1993年10月に北海道屈斜路湖で採取した、3本の柱状堆積物試料中の有機物分析と、顕微鏡下でのケイ藻種組成の分析を実施した。また、屈斜路湖で、2回目の現地調査を行い、流入河川水や、湖岸に湧出する温泉水を総合的に調査した。加えて今年度は、田沢湖や屈斜路湖と同じ様に、酸性温泉水の流入によって、湖水がpH=5程度の酸性を示す、福島県猪苗代湖水系を新たな調査対象に加えた。すなわち、猪苗代湖への酸性の流入河川である長瀬川水系の調査と、堆積物柱状試料の採取である。屈斜路湖・猪苗代湖は、共にわが国では有数の大きさをほこる湖沼であり、気象条件が整わなかったために、当初予定した湖心付近での良好な堆積物柱状試料の採取はできなかった。しかし、いずれの堆積物試料からも、昨年度までの我々の研究で見出された、中程度の酸性湖に特徴的な一連の長鎖分枝化合物群が検出された。この長鎖分枝化合物群の鉛直方向の量的変化と、ケイ藻殻の観察から、屈斜路湖堆積物においては、過去のpH変動-およそ150年ほど前の酸性から中性への変化、並びに50年ほど前の中性から酸性への変化が推定された。この屈斜路湖における大きなpH変動は、湖水・温泉水・流入河川水のイオン分析結果から、酸性泉と重炭酸泉の混合中和のバランスがくずされるためと推定され、地下温泉水脈を乱すような地殻変動との関わりが示唆された。問題の長鎖分枝化合物群は、屈斜路湖の酸性泉川湯温泉源泉直下の河床付着藻類、また猪苗代湖では、長瀬川河口での懸濁物には検出されず、湖内での生物活動によって生産されるものであることが確実視された。猪苗代湖北西岸よりの柱状試料の分析から、年代は不詳だが、中性から酸性への変化ポイントがあることが明らかとなった。
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