生体中での微量元素の生理作用の研究において、微量元素の生体内分布および共存元素に関する情報は非常に重要であるが、この点に関してマイクロビームスキャニングによるPIXE分析法は強力な分析法である。我々は、陽子ビームを用いて、人体臓器組織中の元素分布を調べた。その結果、元素分布の相対的なプロフィールをX線強度の変動として捉らえることは容易だが、元素の定性に関しては問題点が多いことが明らかになった。 そこで、初年度は、特注のカーボン-Pd(パラジウム)電顕用のPt-PdとPd単体を内部標準薄膜の材料として真空蒸着装置を用いて、Pd薄膜を形成し、PIXE法で3者を比較した。その結果、Pd単体が内部標準薄膜の材料として最適であることが明らかとなった。そこで、今までの成果を踏まえて、生体試料の分析を行なった結果、腎臓でも皮質と髄質とでは、明らかに微量元素の組成が異なることを認めた。 以上、我々の確立した金属薄膜蒸着法で、厚い生体試料中微量元素の非破壊定量が可能となった。今までの研究成果を踏まえて、生体試料の分析を行なった結果、Mn、Cu、Fe、Zn、Se、Brの非破壊定量が可能であることが明らかになった。 そこで、我々は生体試料を非破壊で定量すると共に、イオン・ビームを絞り、組織試料中微量元素のマッピングをすれば、非破壊で微量元素の存在状態および存在比、さらには化学形をも推測することも可能であることを考案したので、現在この研究に切り換え、この研究を推進させるべく、試料ホルダーを改良し、同時にデータの高速取り込みと高速解析のためのコンピュータプログラムを開発中である。 また、イオン・ビームを絞り、組織試料中微量元素のマッピングをすれば、非破壊で化学形を決定することも可能であることが示唆され、現在この方面に研究を展開中である。
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