日本の養殖産業において真珠貝(アコヤ貝)やホタテ貝が占める割合は大きい。ところが、ポリドラと呼ばれる小さなゴカイ類はこれらの貝の最大の害敵であり、それによって養殖産業は年間数十億円の被害を受けている。我々は、ポリドラの幼生を用いたバイオアッセイシステムを構築し、徳島沿岸に生育する数十種の海洋生物(海藻、スポンジ、アメフラシ等)を検索した結果、褐藻アミジグサが極めて強力な殺ポリドラ作用を有することを見い出した。すなわち、アコヤ貝の殻に寄生している成体ポリドラから孵化した幼生を含む海水中に、上記海洋生物のメタノール抽出物を一定量加え顕微鏡下で観測したところ、いくつかの抽出物が300ppm程度の濃度で幼生を殺す作用を持つことを見いだした。これらについて、濃度を順次低下させ活性を比較したところ、アミジグサの抽出物が30ppmの濃度で殺ポリドラ活性を有することが分かった。ついで殺ポリドラ活性を指標にアミジグサ成分の分離を行った。アミジグサのメタノール抽出物をヘキサン可溶部、ジクロロメタン可溶部、酢酸エチル可溶部に分離した。一番強い殺ポリドラ活性が認められたヘキサン抽出物をさらにフラッシュクロマトグラフィー、調製TLC、及びHPLCを用いて分離を行い、強力な殺ポリドラ活性を持つ純粋な化合物を得ることに成功した。この化合物についてNMRスペクトル解析、および化学変換を行うことにより、以前我々が伊豆下田産アミジグサから単離、構造決定したクレヌルアセタール-Cであると同定した。クレヌルアセタール-Cの殺ポリドラ作用を詳細に検討したところ、この物質は1ppmという低濃度で幼生を全滅させることが分かった。さらにこの化合物はマウス白血病細胞、ヒト肺癌細胞に対しても活性を示すことが分かった。クレヌルアセタール-Cの生物活性について明らかにされたのは今回が初めてである。
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