Grb2はSH3‐SH2‐SH3のドメイン構造よりなる。EGFRテールの自己リン酸化を受けたチロシンにSH2ドメインが結合し、、SH3ドメインはRasのGDP‐GTP交換活性を持つSosとよばれるタンパク質のプロリンに富んだ領域に結合する。Grb2はEGFRからRasへシグナルを伝達するアダプター分子と考えられている。我々はGrb2を介するシグナル伝達の過程をタンパク質相互の分子認識として明らかにすることを目的としている。C末端SH3ドメインをGST融合タンパク質として発現し、トリプシンを用いて切断後精製し、NMR法により立体構造を決定した。3つのbetaシートが互いに直交して組み合わされたbetaバレル構造を取っている。この構造は既に我々が報告したPLC‐gammaのSH3と良く似ている^<1)>。SH3はタンパク質内で比較的独立したドメイン構造をとるものと考えられる。次にSosに含まれる3個のプロリンに富んだ領域を含むペプチドを化学合成し、蛍光法を用いて結合を調べた。その結果、VPPPVPPRRRはKdが0.1mMで結合した。もう一種類のペプチドは0.7mMで相互作用したが、残りのペプチドは結合しなかった。アミノ酸配列の比較より、コンセンサス配列としてPPVPPRが得られた。VPPPVPPRRR結合に伴うNMRシグナルの化学シフト変化を調べた所、特定の領域に含まれるプロトンが顕著にシフトすることがわかった。この部位は分子表面の一ケ所にマップされ、基質結合部位であると推定された。この領域には、ALFDFをはじめSH3ドメインに保存されているアミノ酸残基のほとんどが含まれていることは興味深い。保存残基はプロリンに富んだペプチドの特異的な構造を認識するために必要と考えられる。この領域のアミノ酸の変異体は活性を失うことが報告されている。
|