研究概要 |
昨年度研究した,オーストラリア西岸沖からのピストンコアRS96GC21とRC9-150についての石灰質ナノ化石の群集解析結果を,国際誌Paleo.Paleo・Palcoの特別号に投稿した.これについては査読も終了して原稿が受理されており,来年度中に出版されることになっている. 本年度は,北部南大洋で採取されたピストンコアV18-222についての分析を完了し,過去の氷期と現間氷河期の間における石灰質ナノ化石群集と有孔虫群集の大きな違いを明らかにした.有孔虫群集を温度変換関数で解析した結果,オーストラリア南東岸沖の表層水温は,氷期(酸素同位体ステージ10と12)には12-9℃まで低下したことが判明した.このことから,氷期の下部透光帯の水温は10℃以下になったことは確実で,Florisphaera profundaが全く産出しないことを説明できる.また,熱帯性や亜熱帯性の石灰質ナノ化石が全く産出しないことから,氷期にはル-エン海流が存在しなかったか,存在してもオーストラリア南東岸沖には達していなかったことは明らかである.また,底生有孔虫群集の特徴から,氷期のこの海域には周南極深層水が存在したことも判明した.一方,間氷期には,有孔虫群集の示す表層水温は14-18℃に達しており,亜熱帯収斂フロントはオーストラリア南岸からかなり南に離れていたことが分かった.また,温暖水を好む石灰質ナノ化石種が連続して産出することから,オーストラリア南岸沖では,最近の1.4万年間ル-エン海流が継続して流れていたことも判明した.北部南大洋におけるこの研究結果は,オーストラリア側の共同研究者であるWells博士との共著論文としてとりまとめ,Australian Journal of Earth Science誌へ投稿したが,今年の8月号への掲載が約束されている.
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