1)本年度は、渦鞭毛藻との共生関係を持つ二枚貝のオオヒシガイ属5種についての生態のまとめを行った。そして、その生態の多様性が共生藻への光の供給と、捕食の回避との二つの要因で説明出来うるとの結論に達した。 共生のためには二枚貝の側だけでも、生態防御機構の改変、共生藻の体内での繁殖の調節など共生のための様々な仕組みが働いている。このような複雑さを伴う共生関係が、オオヒシガイ属の様々な種で独立に成立したとは考えにくい。それよりは、内生の生態をもつオオヒシガイの先祖と暗所適応した共生藻の間にかつて一度だけ共生が起こり、そののち、光の供給と捕食者からの逃避を天秤にかけながら様々な種が進化してきたと考えるのが合理的であるとの仮説を得るに至った。 また予察的に、中生代ジュラ紀後期から白亜紀にかけて藻類と共生していたとされる、ヒップリテス上科の二枚貝の生態の多様性との比較を行った。その結果この上科の二枚貝は、共生に関連した殻形態の特殊化を示すものの、すべて表生であることがわかった。オオヒシガイとヒップリテスの違いは、中生代と新生代における二枚貝に対する捕食圧の違いを反映するものと解釈される。以上の結果をまとめた論文を投稿、現在査読中である。 2)二枚貝と渦鞭毛藻の共生の新しい事例をモクハチアオイ(Lunulicardia subretusa)において見いだした。現在その生態、殻形態、組織学的観察、共生藻の宿主内での存在様式を調査中であり、今年度内には投稿原稿が完成するものと考えている。
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