2年間の最終年度である本年度は、これまでの北限域常緑広葉樹林に関する結果をとりまとめ種群の類型化と立地特性との関連を明確にすることをめざした。地理的な枠組みとしては、北限域の常緑広葉樹林の特性を明確にするために常緑広葉樹によって構成される熱帯型垂直分布と常緑樹から落葉樹、針葉樹へとリ-フタイプが変化する温帯型垂直分布との構造的特性、とくに樹高と種多様性の相違をエネルギー仮説にもとづいて説明した(Vegetatio in press)。熱帯型垂直分布で上部山地林を構成する小形葉林は温帯では植生帯としては消滅するが、その理由と温帯域では針葉樹林が同位的な位置を占めるようになることを示した(Springerの単行本)。また、地形的なスケールでの屋久島のリ-フサイズが異なる林分の比較については成果の一部を環境庁の報告書に発表した。そのほか地形的スケールでは、千葉県清澄山における、一個の集水域内での地形的植生パターンを遷移的なプロセスとの関連で解析した結果を発表した(Ecological Research 1994)。これらの成果に本年度の成果であるフェノロジー、光合成や水分特性などの生理生態学的特性、さらに屋久島での土壌、地形に関する立地特性を重ね合わせて、北限域の常緑広葉樹林について総括的なまとめを行いたいと考えている。とくにフェノロジー特性が群落階層における種のニッチや遷移的ニッチと関連をもっている事実は、群集としてのアセンブリー・ルールに種の生理生態学的特性が関わっていることを強く示唆するものであり、今後、このような統合的研究がますます重要な意味をもつことを示唆する。次期の一般研究として申請中の研究はそこをめざしている。
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