研究概要 |
固着生活性の生物集団の地理分布動態の基礎モデルを提出した.これは,樹木群集の一方向競争モデルと生物散布の拡散モデルにもとづいている.これによって,従来の個体レベルのモデルでは技術的に実現できなかった,繁殖子の散布過程にもとづいた地理分布動態の分析の道が開けた.現在の地球環境変化シナリオにともなう森林帯の緯度分布の変化についてのシミュレーションをおこなった結果,現存量レベルの変化はタイムラグがないが,緯度方向の森林帯移動は既存の森林帯に妨げられて,数千年間のタイムラグを持った動きになることがわかった.現存量は植生帯の南限で低く,北限で高くなり,現存量が鋸歯状の地理分布を示すことになる.この内容は昨年9月の国際GCTEシンポジウムで発表した(Kohyama & Shigesada,“A size-distribution-based model of forest dynamics over a thermal gradient along latitude",Vegetatio誌に投稿予定). また,機能的な過程(光をめぐる一方向競争など)を組み込んだサイズ構造モデルによって,植物の個体群レベルと群集レベルの機構を統合的に説明されつつある現状を整理した(Kohyama1994).米国を中心に用いられている個体ベースのモデルに比べて,サイズ構造モデルがはるかに理論的な見通しがよく,統合化の牽引的役割を担っている.植物群集の多種共存が,植物による光資源の空間分布形成によってもたらされることを証明し,「森林構造仮説(Forest architecture hypothesis)」を提出した(Kohyama1993).熱帯林で種多様性が高くなるメカニズムも,この仮説から説明できることを指摘した(甲山1993;Kohyama1994).
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