TiプラスミドによるDNAの導入は、Agrobacteriumが植物に感染した際に誘導される多段階の反応により引き起こされる。その内の最も重要な素過程の一つは感染時に誘導されるAgrobacteriumのvir遺伝子の発現であり、その遺伝子産物の働きによりDNAが植物細胞へ転移する。本研究の目的は、このTiプラスミドによるDNA導入の素過程の分子機構を理解する必要がある。本研究では、DNA転移の鍵となる反応であるvir遺伝子の発現は植物からのフェノール物質と単糖による協調的作用により誘導されるが、フェノールによるシグナルはVirAセンサータンパク質のリンカードメインに、単糖のシグナルはペリプラズムドメインに作用することを明らかにした。さらに、Agrobacteriumがタバコ細胞に感染する際に誘導される植物側の反応を検索し、46kDaのプロテインキナーゼが一過的に活性化されることを見出した。このキナーゼの活性は、そのタンパク質のチロシンとセリン/トレオニン残基がリン酸化されることによることがわかった。また、このようなキナーゼはタバコのみならず、シロイヌナズナやイネなどの他の多くの植物にも存在することがわかった。したがって、このキナーゼは植物界に広く分布しており、植物の重要な生理学的過程に関与していると考えられる。今後さらに、Agrobacteriumの植物への感染との関連を研究していく計画である。
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