研究概要 |
本研究は、淡水産単子葉植物オオセキショウモの葉肉細胞で、原形質流動の軌道として働いているF-アクチンを主成分とするマイクロフィラメント(MF)束が細胞壁関与のもとに、細胞内所定の位置に安定して配列している機構を知ることを目的としている。 平成5年度には安定化の場の同定を行った。この実験では、MF束が細胞質内で他の分子種の共在下に安定化を受けている部位では長時間のサイトカラシンB(CB)処理によってMF束は破壊されずに残り、これらがMF束の再構築に際しては種として働くと考えた。葉の切片を切り出し、更に、葉肉細胞の長軸に垂直な面(side wall)、及び長軸端に垂直な面(end wall)がそれぞれ露出するように切片を切断した。MF束は、FITC-ファロイジンで染色した後、螢光顕微鏡で観察した。CB(100μg/ml)で一定時間(6,12,・・・・・48時間)処理した後、MF束の変化を追跡した。side wallでは6時間処理でMF束は破壊されはじめ、24時間処理でMF束は完全に消失した。しかし、end wallでは48時間処理でもMF束の断片化は起こるものの消滅せずに残った。これらの結果よりMF束はend wallでより安定化を受けていることが明らかになった。CBで24時間処理後、CBを除去しMF束の再構築の過程を観察したところ、side wall、end wallで共に複雑な過程を経て24〜48時間後には正常なMF束の配列が再形成され、正常な原形質流動の誘発も観察された。CB処理前後に各細胞にみられる流動の方向を調べ、48時間処理後でも流動方向を転換した細胞の数が全観察細胞数の32%であることを確認した。このことは48時間CB処理後にもend wallに残存するMF束が再構築の種として働き、再構築されたMF束の極性決定に貢献していることを示している。 平成6年度は、MF束の安定化に関与する細胞壁中の因子がどのようなものであるかについて検討した。動物細胞の細胞外基質蛋白質であるビトロネクチンやフィブロネクチンは分子内にRGDというアミノ酸配列をもっている。膜貫通型蛋白質であるヒドロネクチン受容体は細胞外でこの配列を介してビトロネクチンに結合し、細胞内でのF-アクチンの構築を支配するというモデルが提出されている。高等植物からもビトロメクチン様蛋白質が精製されている。この蛋白質は恐らく細胞壁に存在するものと思われる。そこでRGD配列に競争的に働くと思われる合成ペプチドGRGDSPを細胞外から与え、流動のパターン、MF束の配列への影響を調べたところ、両者はペプチド濃度(1〜30mM)に依存して著しく乱された。対照ペプチドGRGESPによる影響は見られなかった。 平成7年度にも上記の研究を続行した。RGD配列と免疫的にも機能的にも同等であるとされている配列RYDを含むペプチドARYDEIを合成し細胞外から与えたところ、1〜30mMの濃度範囲で流動のパターン、MF束の配列は濃度依存的に乱された。対照ペプチドARYEEIは影響しなかった。一方、ARYDEIの抗体を作製し、間接螢光抗体法により細胞壁が染色されることを確認した。またウエスタン法により54kDペプチドがこの抗体と免疫交差することを示した。これらの結果はRGD配列あるいはRYD配列をもつ蛋白質が細胞壁中に存在し、受容体を介してMF束の配列安定化がなされていることを示唆している。細胞壁中のこれら蛋白質の抽出精製、及び受容体存在の確認とその同定が必要であることがこの研究の結果明らかになった。
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