この研究は、被子植物の中で最も難解な分類群と言われてきたトウダイグサ科植物の類縁・系統関係の解明をめざしている。このトウダイグサ科植物は、世界中に分布している約300属7000種以上の大きな科であり、かなり異質な植物群であることが指摘されている。だが、分布の中心が熱帯にあることや目立たない単性花をもつものが多く、最も研究が遅れている植物群のひとつである。 この研究の目的は、トウダイグサ科植物の花粉形態と比較発生学の膨大なモノグラフを完成させることである。さらに、花粉に見られる微細な形質と比較発生学的形質の分類学的評価を重ね合わせることによって、トウダイグサ科の高次分類群の系統関係の解明する新たな展望を切り開くことである。 今年度は、210属345種のトウダイグサ科植物の花粉形態に関する基本データの集積に努めた。それぞれの花粉サンプルをアセトリシス処理し、透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡で観察し、花粉型、発芽口の数、構造、表面模様、外膜の層構造を明らかにするようにしてきた。その結果、これまで全く知られていなかった花粉型がトウダイグサ科に存在していることや、Acalyphoideae亜科に異質で多様な花粉形質が存在していることを明らかにしてきた。その結果、これまで曖昧であった亜科内の類縁関係・系統関係を解明するための有力なてがかりが次々と得られている。また、比較発生学的な研究のためにサンプリングに努めた結果、分類学上重要な材料を収集することができた。一部の材料については、解剖学的データが出始めている。 花粉形態学の世界的リーダーであるスミソニアン研究所のノイッケ博士とトウダイグサ科植物のオーソドクスな分類学者であるカリフォルニア大学のウエブスター博士との協力関係が形成され、国際的な共同プロジェクトに発展してきた。花粉形態に関する基本データの集積もスムーズに進展している。
|