この研究は、被子植物の中で最も難解な分類群と言われてきたトウダイグサ科植物の類縁・系統関係の解明をめざしている。トウダイグサ科植物は、世界中に分布している約300属7000種以上の分類群から構成されている大きな科であり、かなり異質な植物群であつことが指摘されてきた。だが、分布の中心が熱帯であることや目立たない単性花をもつものが多く、最も研究が遅れていた分類群のひとつであった。 昨年まで得られたデータに加えて、今年度はマダガスカル等に固有種として分布している種のサンプルを得ることができた。これらのサンプルをアセトリシス処理した後、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、および光学顕微鏡にて観察し、花粉の表面模様、発芽口の構造、花粉外膜の構造、花粉のサイズ等の基本データを収集した。さらにスミソニアン研究所の支援で11月に約1ヶ月にわたって米国でノイッケ博士と論文発表に関する意見交換を行った。戸部は、トウダイグサ科のコミカンソウ亜科の胚珠と種子形態に関する研究を行い、分類システムの再検討をした。 その結果、トウダイグサ科植物はひとつの群として特徴づける花粉形態学あるいは比較発生学的な形質が存在していないことがわかった。つまり、Webster (1994)が主張しているようなトウダイグサ科の単系統性は支持されず、トウダイグサ科は異質な分類群であることが示唆された。特に、Acalyphoideae亜科とPhyllantoideae亜科の異質性の程度が高く、Euphorbioideae亜科、Oldfieldioideae亜科は異質性の程度が比較的低いことがわかった。これらの成果は、この科の新たな分類システムを生み出す重要な契機になるであろう。
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