研究概要 |
本研究は,電気透析発酵法による有機酸生産に関して,モデル発酵液を用いて電動力学的解析を行い,Propionibacterium shermaniiによるプロピオン酸と酢酸の同時生産およびClostridium tertiumによる有機酸と有機溶媒の混合発酵について培養工学的検討を行ったものである. まず,有機酸イオンの移動速度および電流効率に及ぼす諸因子の総合的影響を実験により明かにし,電気透析のイオン流束の予測式を提示した。 電気透析室出口の透析希釈液が,ある条件で急激にpH=12〜13に上昇する現象を見出し,有機酸のイオン流束,膜の面積,透析液の流量および供給液有機酸濃度に依存することを理論的に明らかにした。 有機酸(酢酸)の透析速度に対する無機栄養塩(リン酸塩)の透析速度と,リン酸塩のモル分率,溶液pH及びイオンの移動度との相関関係を測定し,理論的な予測と一致することを確かめた。 前記の知見を踏まえて,アルカリ添加電気透析方式で透析希釈液を分流循環する電気透析培養システムを開発した。このシステムを用いて,Propionibacterium shermanii PZ3によるプロピオン酸と酢酸の同時生産および分離回収を行ない,発酵速度が,プロピオン酸で1.40倍,酢酸で1.31倍に向上することを明かにした.この培養系における菌体および生産物の濃度のシミュレーションを行い,実験結果を数式で表示できた. Clostridium tertium IAM14196による酢酸,乳酸,酪酸,エタノールなどの生産に対する電気透析の効果について調べた.対グルコース発酵収率が,電気透析培養法では,酢酸が2〜3倍,酪酸が3〜4倍に向上した.アルカリ添加によるpH制御培養法では,乳酸とエタノールが,それぞれ1.5倍,4倍になった.すなわち,電気透析培養法により,発酵生産物の生成比すなわち発酵の代謝経路が変化することを見出した.
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