研究概要 |
平成5年度までにHD‐1株が嫌気条件下においてテトラデカンを酸化分解し、その代謝中間体が1‐ドデセンであることを確認した。平成6年度においては、HD‐1株のその他の諸特性の解明としてCO_2固定能力に注目して研究を進めた。 先ず、CO_2を単一炭素源とする培地0.5%(NH_4)_2SO_4,0.1%KH_2PO_4,0.05%MgCl_2・6H_2O/水道水(pH7.0)にCO_2を含む混合嫌気ガス(CO_2:H_2:N_2=5:5:90)を通気して37℃2週間培養した。増殖した菌体の一部をグルタールアルデヒドで固定した後、定法に従い超薄切片を調製した。透過型電子顕微鏡で観察したところ、HD‐1株の細胞表層は凹凸に富んでいた。さらに、細胞内には電子密度の低い油滴と思われる顆粒が多数観察された。この結果からHD‐1株は疎水性物質を蓄積することが示唆されたためクロロホルム抽出によって調製した疎水性画分についてGC分析を行った。その結果、疎水性画分のうち約80%が生分解性プラスチック原料として注目されているヒドロキシ酪酸およびヒドロキシアルカン酸のポリマーであることが判明した。さらに残りの成分をGC分析したところパラフィンに相当する位置にピークが検出されたため、GC‐MS分析による質量数の決定ならびに構造の推定を行った。親イオンピークならびにフラグメントイオンピークの特徴から脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸)以外に質量数278,226,あるいは198の脂肪族炭化水素(それぞれ、エイコサジエン、ヘキサデカン、テトラデカン)が確認できた。 以上の結果、HD‐1株は嫌気条件下において炭化水素を分解するだけでなく、CO_2とH_2から逆にプラスチック原料として利用可能な炭化水素を合成する能力も有していることが明らかとなった。
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